「最近、飲む量多くなってきたんだじゃない?」

 瓶にのばし掛けて止まった手で、思わず側の本をつかんだ。




「そうかな?」

 気にしていたことを言い当てられたのに驚いたんじゃない。
 すぐ側まで来ていたのに、全く気がつかなかったから驚いたのだ




「まだ出てこない?」

 後ろからのぞき込み、画面をスクロールしていく数字に顔をしかめているのが見えた。
 昔から理数系が大の苦手だとか言っていたっけ。
 数字ほど、簡潔で、表現豊かなものはないと思うのに。




「もうすぐだと思う」

 気になった数字をセレクトし、グループ分けしていく。
 僅かではあるが、無視できない偏りが、日を追うごとに濃く現れている。
 仲間の予想とは少しずれるが、あと数回の選別で正確な位置を把握できるようになるだろう。




「・・・これで」

 画面に並ぶ数字が、ぐにゃんと、ありえない形に歪んだ。

 気がつかなかったふりをする。




「これで、やっと終わり」

 0が大きくなって、隣の2を吸い込んだ。


 見なかったことにした。




「やっと出られるんだ、私たち」

 6と9が互いの尻尾に食らいつき、画面を蹴散らしてながら回っている。



 画面の向こうに焦点を合わせた。

 もう、見ていられない。

 でも、目を閉じられない。

 閉じたら、気づかれてしまう。




「最近は飽きちゃったな、その話」

 画面が透けて、僕の目へと発射される電子群が見えた。
 こっちの方がいい。




 僕が痛んでいくのは、現実だから、間違いない。




「どうして?」

「話しすぎて、記憶よりもはっきり思い出せちゃうんだもの」




 絶え間ない流れ星は、僕の目にぶつかって、神経を駆逐していく。




「未来って、台本を作って演じるものじゃない。何が起こるかわかんないから、楽しみにできるものだと思う」

 この流れ星は、誰の願いを叶えてくれるのか。




 どんな願いを、叶えてくれると、いうのか。




「確かにそうかも」
「それでも、考え尽くせないのが未来だっていう考えもできるけどね」
「そうだね」




 タイマーが鳴った。

 休憩。

 やっと自然に目を閉じられた。




「ところで、何か用があったんじゃないの?」
「あ、忘れてた」

 顔を向けて、目を合わせないようにする。
 後ろ手で画面を消し、部屋は真っ暗になる。




「みんなにどうしても聞いてもらいたいことがあるって」
「話?」

 トラブルだろうか。
 でも、みんなに話さなくちゃいけないような?
 どんな種類のトラブルだというのか。




「今すぐ?」
「みんなの仕事が終わってからでいいって言ってた」
「じゃあ、少し休んでから行くよ」

 その言葉に頷いて、部屋から出て行く。




 開いたドアから差し込む光が、後ろ姿を黒に切り取った。


 闇の中、ずっと目を閉じていた私には見えなかったが。






 そして、むさぼる音が響く。






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